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日本の大腸がんの5割に見られるコリバクチン毒素によるDNA変異は予防の鍵となるでしょうか?

(副院長 筆)

先日、「日本の大腸がんの5割 腸内細菌の毒素が原因か」というニュースが流れました。

大腸がんの半分が腸内細菌のせいなの!? とタイトルを見るとそう思いますが、
これは例によってちょっと大げさな見出しです。
よく読むと、大腸がん患者の5割に、腸内細菌から分泌される、
コリバクチン毒素が原因と思われる遺伝子変異が検出された
、ということなのです。

この変異があったからといってすぐ簡単に大腸がんになるわけではありません。
コリバクチン毒素がかならず大腸がんを起こすというものでもありません。

とはいえ、そもそもがんは遺伝子の変異がいくつか重なって発生するものです。
コリバクチン毒素は遺伝子を変異させるものですから、がんの原因と言えます。
これをなんとかすることができたら、大腸がん予防の鍵になるかも、というそんなお話しです。


昨年当院の講演会でもお話ししたところですが、
日本において多いがんのトップ3は、大腸がん・肺がん・胃がんです。
このうち肺がんは禁煙で、胃がんはピロリ菌除菌で減らすことができました。
しかし大腸がんだけはいまだに予防につながる重要な危険因子が見つかっていません。
そのため大腸がんは減っておらず、若い人の大腸がんも増えています。


今回報道された研究(→論文 →国内報告)は、大腸がんの危険因子を探索するのが主な目的でした。

大腸がんの遺伝子を調べると遺伝子の変異が多数見つかりますが、
それをよく調べると、何が原因で遺伝子が壊れたか推定できます。


世界11か国でこの研究を行いました。
この中で日本がいちばん大腸がんの発生頻度が高いのですが、
その日本で、コリバクチン毒素が原因である、
SBS88とID18という遺伝子変異のパターンがいちばん多かった
のです。



(国立がん研究センターHP)

つまり、日本人に大腸がんが多いのは、
コリバクチン毒素のせいではないか
と推測されるのです。


では、コリバクチン毒素はどこから出てくるのでしょうか。
コリバクチン毒素は腸内細菌の一部から産生されます。
E.coli B2系統群、という菌に多いのですが、他にも毒素を出せる菌はかなり多数あります。
便の検査をすれば、コリバクチン産生菌がいるかどうか知ることができます。

世界的な研究では、健康な人の20.8%、大腸がん患者の66.7%にコリバクチン産生菌がいたという報告があります。(→論文)
日本では健康な人の46%、大腸がん患者の43%にコリバクチン産生菌がいたとの報告があり(→論文)、
ここでは差を認めません。とはいえ、日本人は健康な人でも海外にくらべて
倍以上の割合でコリバクチン産生菌がいる、という見方もできます。


また、今回報道された研究では、コリバクチン毒素による変異パターンは、
若年者(50歳未満)の大腸がん患者では、高齢者(70歳以上)の大腸がん患者に比べ3.3倍多く見られた、
と報告されています。増加傾向にある若年者の大腸がんにコリバクチン毒素が関与していることが推測されます。



(国立がん研究センターHP)

では、これをどのように予防につなげればよいのでしょうか。
ピロリ菌のように除菌できればよいのですが、コリバクチン産生菌はかなり多種にわたり、
腸内細菌として量も多いので除菌するのは相当に困難そうです。

ひとつ、西洋式の食事がコリバクチン毒素による大腸がんを増やす、という報告があります。(→論文)
これは熊本大とハーバード大がアメリカ人を対象に行った研究で、
西洋式の食事とコリバクチン産生菌について関連を見たものです。
コリバクチン産生菌の多い人は、
西洋式の食事をあまり食べなければ、大腸がんのリスクは1.23倍程度ですが、
西洋式の食事をよく食べる人は、大腸がんのリスクが3.83倍になります。

コリバクチン単独ではなく、コリバクチン+西洋式の食事、でリスクになっているのかもしれません。
以前より赤肉や加工肉は大腸がんのリスクと考えられてきましたが、
コリバクチン毒素がそこに関与しているようなのです。


西洋式の食事とは、高脂肪・高カロリーで、果物や魚が少なく、糖分・塩分が多い食事です。
これを避けることで大腸がんの予防につながります。



(コリバクチン産生菌の有無は便検査でわかります。実施している医療機関はあるようですが、当院では未対応です)


研究がもっと進めば、コリバクチン毒素をどうにかして、
よりよくがんを予防する方法が発見されるかもしれません!


とはいえ現状、いちばんの大腸がん予防法は、大腸内視鏡検査を受けてポリープを切除することです。
76-90%の大腸がんが予防可能です。(→論文)


とくにまだ大腸内視鏡を受けたことのない40歳以上の方、
いちどは大腸内視鏡を受けることをお勧めいたします。
当院では鎮静剤を使った苦痛のすくない検査を行い、
ていねいな観察を心がけております。ぜひご検討ください!