みなさま、春についてどんな印象をお持ちでしょうか?

長い冬が終わり、草花が芽生える季節です。
卒業式や入学式もあるので、晴れやかなイメージを持つ方も多いでしょう。
こんな季節に、ゆううつな気分しか感じないあなた。きっと花粉症をお持ちですね?
私もそうです。
春はずっと目やにと鼻づまりに悩まされます。
もう春なんて季節はなくて、冬の次は花粉、花粉の次は梅雨、梅雨の次にようやく夏の気分です。
花粉症との戦い、それはさわやかな春を取り戻すための闘争なのです。
花粉症対策の基本は、まずは花粉を避けることです。
そのための方法は前回院長がしっかりと書いてくれました(→こちら)。
最低限マスクをするだけでだいぶ違います。
目の症状が出やすい方は眼鏡やゴーグルも良いかもしれません。
コロナ禍のころは外にでるのにN95マスクをつけていた時期があり、その年は花粉症がほんとに軽くすみました。
とはいえ、花粉を避けるといっても、限界はあります。
春なのに、ずっと家に引きこもっているわけにもいかないでしょう。
となると、次の手段は薬を使ってみよう、となります。

まず最初に使ってみるのが、ヒスタミンH1受容体ブロッカーと言われるタイプの薬です。
アレジオン、アレグラ、タリオン、ザジテン、など名前に見覚えがある方も多いのではないでしょうか。最近では町の薬局で売ってるものもありますね。
アレルギーが発生するとき、まずマスト細胞からヒスタミンという物質が分泌され、
それが鼻や目の細胞に作用して鼻炎や結膜炎を引き起こします。
このヒスタミンがくっつく場所を邪魔して、炎症を起こさないようにする薬です。

花粉症の薬もいいけど、眠くなるのが困るよね、という方もいると思います。
とくに車の運転をするひとは、花粉症の薬を飲めないことがありました。
確かに、昔の薬はだいぶ眠くなるものもあります。
なぜかというと、昔の薬はムスカリン受容体という、ヒスタミン受容体にそっくりなものまで、いっしょに邪魔してしまうからです。
ムスカリン受容体は、コリンという物質に反応します。
コリンは神経の働きに重要なものですから、ここが邪魔されると、神経が鈍くなって眠くなったりぼーっとしたりしてしまうのです。
第2世代のヒスタミンH1受容体ブロッカーは、ヒスタミンは抑えるけど、ムスカリン-コリンはあまり邪魔しません。
アレルギーは止めるけど眠気は出にくいというわけです。
さらに、目や鼻には行くけど、脳神経には行かないような薬も開発されています。
眠くなることがほぼないので、車の運転もOKとなっています。
薬の添付文書で車の運転が要注意でも禁止でもないのは、
ビラノア、アレグラ、クラリチン、デザレックス
の4つです。
効果も十分あって使いやすい薬なので、当院ではよく処方しています。
ビラノアやアレグラだけで春を満喫できるなら良いのですが、まだ不十分だという方もいらっしゃいます。
次に考えるのが、ロイコトリエン受容体拮抗薬という薬です。
シングレア、キプレス
という薬ですが、最近では一般名である「モンテルカスト」のほうがなじみがあるかもしれません。
ロイコトリエンは鼻粘膜の白血球から分泌されて、鼻を充血させて鼻づまりを引き起こします。
ここをブロックするモンテルカストは、ヒスタミンH1受容体ブロッカーより鼻づまりによく効きます。
プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2受容体阻害薬であるラマトロバンも、似た作用を持っており鼻づまりに有効ですが、
血液を固まりにくくする副作用があり、最近ではあまり処方されないようです。


目薬や点鼻薬を愛用されている方もいらっしゃるでしょう。
目薬では、飲み薬でも使われるヒスタミンH1受容体ブロッカーが入っているものが多いです。
アレジオン点眼薬、ザジテン点眼薬などあります。
ステロイド系の点眼薬もありますが、ステロイドを目に使うと緑内障の副作用を気にしないとならないので十分注意が必要です。
点鼻薬にはステロイド剤がよく用いられます。ステロイドの副作用もほとんど出ませんし、有効性は高いとされます。
ここまでが、内科診療でよく用いられる薬剤です。
とてもよく効く薬であり、これで十分すてきな春を過ごせるでしょう。
ただ、私(副院長)はそうではないのです。

アレルギー性鼻炎の重症度基準によると、
一日中鼻づまりが続くか、1日に21回以上鼻をかむような人は、それだけで最重症です。
え、そんなので最重症になっちゃうの? そう思うあなたや私はどうしたら良いんでしょうか?
ちょっとだけステロイドの話をします。
糖質ステロイドは、副腎皮質という臓器から分泌されるホルモンであり、全身にさまざまな作用をもたらします。
このホルモンを薬として飲むことで、アレルギーや免疫を抑えることができます。
消化器内科では、潰瘍性大腸炎、クローン病などの免疫の関わる慢性腸炎の病気、自己免疫性肝炎、自己免疫性膵炎などにステロイド剤を使うことがあります。
花粉症にも有効なのですが、あまり使われないのは、副作用の問題が大きいからです。
糖質ステロイドは、ホルモンとして多くの働きがあり、そのため副作用もいろいろなものが出てきます。
免疫を抑える力のせいで、感染症にかかりやすくなります。
血糖をあげる力のせいで、糖尿病を起こすことがあります。
また、精神作用もあるので、うつ状態や興奮状態になったりすることがあります。
長期に使うと、骨粗鬆症になったり、白内障・緑内障といった目の副作用も出てきます。
またホルモン剤を長く飲んでいると、本来からだから出るはずのホルモンが出にくくなって、二次性副腎皮質機能低下症という病気になったりもします。

花粉症には古典的なふたつのステロイド剤があります。
ひとつはセレスタミン(エンペラシンなど、他の名前のジェネリックもあります)という内服薬、もうひとつはケナコルトという注射薬です。
セレスタミンはベタメタゾンという糖質ステロイドとd-クロルフェニラミンの合剤です。
d-クロルフェニラミンとはポララミンという第1世代のヒスタミンH1受容体ブロッカーであり、つまりかなり眠くなりやすい薬です。
ケナコルトはステロイドの徐放製剤で、1回打つと3週間くらいステロイドの作用が残り続けます。
なので、副作用についても相当心配しないとならないものです。
今となっては、両方とも使いづらい薬と思います。
セレスタミンに含まれるステロイドは、プレドニゾロンというよく使われるステロイド剤の2.5mgに相当します。
プレドニゾロンを2.5mg内服すれば、セレスタミンと同じくらいの効果はあります。
どうしても辛い時期の2週間くらい、プレドニゾロン2.5mgを内服することは考えられそうです。
ただ、副作用のことを考えると、長期に及んだり量が増えたりすることには気をつけなければなりません。
あまりに辛い方は、アレルギー科や耳鼻科に相談しても良いかもしれませんね。
舌下免疫療法という手段もあります。
オマリズマブ(ゾレア)という皮下注射薬は最重症例に用いられます。
鼻粘膜焼灼などの手術療法もあります。
自分自身(副院長)は、これまでクラリチン、デザレックス、ビラノア、シングレア、ラマトロバン、フルチカゾン点鼻薬、プレドニゾロン、などなど自分に使っていたことがあります。
春を取り戻す戦いは道半ばですが、最近はなかなかに善戦しているような気もします。

晴れた空を見てうらめしく思う方、洗濯物を外に干すこともためらう方、
神明通りクリニックにぜひご相談ください。
市販薬ではどうしても症状が残る、眠たくなるという方もご来院ください。
春が心地よい、すてきな季節に変わるように、お手伝いしたいと思います。