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インフルエンザワクチン、今年はいつ何回打つ?

2026年は8月末から流行入り。早めに打つ? 10〜11月まで待つ?

院長の吉岡です。

今年は、例年よりかなり早くインフルエンザの流行が始まりました。 東京都では8月27日に流行開始が発表されています。 こんなに早くインフルエンザが流行することは、 私も初めての経験です。

早い流行に伴い、インフルエンザワクチンの接種のご希望にこたえ、 当院でも9月10日から任意接種を開始しています。

インフルエンザワクチンの一般的な詳しい情報については、 厚生労働省の 「インフルエンザワクチン(季節性)」 がわかりやすく、参考になります。

ただ、異例の早いインフルエンザ流行に伴い、

「9月に打つのは早すぎない?」

「10月や11月まで待った方が冬まで効くのでは?」

「少しでも長く効かせるために2回目を打った方がいいのでは?」

「なんなら、2回目の接種を4週間後じゃなくて、 3か月後とか、年明けにしてしまえばいいのでは?」

などなど、インフルエンザワクチンの接種の仕方を迷う方もいると思います。

私自身も、今までは、

「ワクチンの効果は5か月程度期待できるとされています。 だから、10月、11月に打つと3月ごろまで効果が期待できるので、 インフルエンザが本格的に流行する前のこの時期に打っておけばいいですよ! (ちなみに、予防効果が得られるのは接種してから約2週間後です)」

と説明していました。

もちろん、5か月間ずっと同じ効果が続くわけではありませんが、 従来の流行時期を考えると合理的な説明だったと思います。

ところが、今年はこの説明だけでは済まなくなってしまい、 私自身も戸惑っているのが事実です。

そこで、改めて接種時期や接種回数について調べてみました。

今年のインフルエンザワクチン、どうしたらよい?

結論から言うと、今回、私が調べてみて出した答えは次の2つです。

疑問 1

9月に打つのは早すぎない?

回答:すでに流行が始まっている今年は、 9月に接種するのも一つの選択肢です。 成人なら基本的には1回接種でよいと考えています。

ただし、今後の流行のピークがいつになるかは、 まだわかりません。


疑問 2

効果を長持ちさせるために、 2回目を3か月後などに打つのは?

回答:追加接種で効果を長持ちさせられるかについては、 十分なデータがありません。 当院では、この目的での接種はお勧めしていません。

では、どうしてこのような結論になったのか。

実際に研究論文を読んでみると、 意外な結果もありましたので、ご紹介します。

疑問1.9月にワクチンを打つのは早すぎない?

まず、大人は1回接種でよいの?

インフルエンザワクチンは、13歳以上の方については、 原則1回接種が基本となっています。

その理由の一つは、成人において1回接種と 4週間あけた2回接種とでは、 抗体の上がり方に大きな差がないという研究があるためです。

先ほどの厚労省のサイトでは、 原則1回接種が推奨されています。

その根拠として紹介されている研究資料を読んでみると、 そのうちの一つ、

「炎症性腸疾患患者のインフルエンザワクチンによる 免疫原性に関する調査(2015/16シーズン)」

が参考になりました。

この研究では、炎症性腸疾患の患者さんと健常人に対して 3〜4週間あけて2回ワクチンを打ち、 抗体価がどうなったかを判定しています。

抗体価については、なんと、

「2回目を打ってもさらなる抗体価の上昇を認めなかった」

という結果でした!!

2回目を打つとブースター効果 (さらに抗体価が上がること)が得られるものと思っていたので、 インフルエンザワクチンでは必ずしもそのようにならないことに、 とても驚きました。

もちろん、この研究だけで、 すべての人に2回目の接種が無意味であるとは言えません。

しかし、一般的な成人では1回接種で十分な免疫応答が期待でき、 基本的には1回接種でよいと考えられています。

だったら、いつ打てばいいの?

今までは、インフルエンザの流行は 12月〜3月が中心と説明されていました。

ワクチンの効果は接種後約2週間で期待できるようになり、 効果の持続期間は一般に5か月程度と説明されています。 ただし、効果は時間とともに変化し、 年齢や流行株によっても異なります。

ですので、今までは10月や11月に接種して、 冬の流行期に備えておくことが合理的だったわけです。

ところが、コロナ以降、 どうも流行の仕方がおかしくなっていると感じていた私は、 チャッピーにお願いして、 インフルエンザの流行がいつからいつまで続いているのか、 表にしてもらいました。

チャッピー
お任せください!
過去10シーズンのインフルエンザ流行時期の比較図
図1:過去10シーズンのインフルエンザ流行状況。 JIHS感染症発生動向調査などをもとに、 流行時期を概略化した図です。

コロナ以降、インフルエンザ業界にもおかしなことが起きていて、 流行のピークが2回来たり、11月に流行ったり、 そもそも流行期というものが5か月以上続いてしまうこともわかりました。

2020年と2021年にインフルエンザが ほとんど流行しなかったことも思い出しました。

院長
いやー、びっくり。

流行期ってこんなに長いとは知らなかったです。

そして一般的には、いわゆるピークの時に 「流行ってるなー」と感じる、 ということを実感いたしました。

このピークの時期は、 ぜひインフルエンザワクチンの効果を期待しながら 過ごしたいですよね。

そうすると、12月〜3月まで流行っていた時代は、 本当に10月、11月に接種すれば合理的だったんだな、 と改めて思いました。

さすが、長年推奨されてきた接種時期だけのことはありますね。

今年は、流行が早くなっている!(9月なのに。。。。)

であれば、流行がすでに始まっている今年は、今後ピークがすぐ来る可能性もあるので、 ワクチン接種を前倒しにするのも一つの作戦だと考えられます。

今年のピークが9月に来るのか、 もっと後になるのか、 あるいは冬にもう一度ピークが来るのかは、 現時点ではわかりません。 もちろん、来年2月3月まで十分に効果が続くとは限らないです。

それでも、すでにインフルエンザが流行している状況であれば、 従来の10月、11月という時期にこだわらず、 早めに接種するのも一つの手と考えます。

疑問2.効果を長持ちさせるために、2回目を3か月後などに打つのは有効か?

今回のことで私が思った、もう一つの疑問。

「インフルエンザワクチンを9月に打って、 3か月後の12月や年明けにもう一度打てば、 冬まで効果を長持ちさせられるのでは?」

ということです。

これができれば、 早く始まった流行にも対応できるし、 冬の流行にも備えられる。 なんだかよさそうな気がしますよね。

そこで、こちらについても調べてみました。

まず、添付文書にはどう書いてあるの?

国内の標準量の不活化インフルエンザワクチンの添付文書には、 13歳以上について、次のような用法・用量が記載されています。

「0.5mLを皮下に、1回又はおよそ1〜4週間の間隔をおいて2回注射する。」

また、2回接種する場合の接種間隔については、 免疫効果を考慮すると4週間おくことが望ましいとされています。

つまり、3か月後や半年後に2回目を打つ方法は、 通常の用法・用量としては記載されていません。

これに反して接種を行った場合、 万が一健康被害が起きた際に、 公的な副作用被害救済制度の対象と認められない可能性などもあり、 個別に慎重な判断が必要になります。

いわゆる「大人の事情」もあるわけです。

それだけではありません。半年後に接種した研究がありました!

よくよく調べてみたところ、 シンガポールで6か月あけてワクチンをもう一度打ったときに どうなるか、ということを研究した論文がありました。

シンガポールのTROPICS1という試験です。

Young B, et al. Clinical Infectious Diseases. 2019;69(1):121–129.
TROPICS1の論文はこちら(PubMed)

1年を通じてインフルエンザが流行し、 年に2回の流行の山が現れることもあるシンガポールで、 半年に一度ワクチンを打ち、 抗体を調べた研究です。

対象は65歳以上の200人でした。

使用されたのは、 現在日本で使用されているワクチンと同じ不活化ワクチンの仲間で、 A型2種類、B型1種類を含む3価ワクチンでした。

この論文によると、 インフルエンザA型(H1N1)では、 一定以上の抗体価を持つ人の割合が、 接種1か月後の約8割から半年後には約6割まで低下しました。

そこで、半年後に2回目を接種すると、 その割合が再び上昇しました。

一方、A型(H3N2)とB型では、 半年後にも95%以上の人が一定以上の抗体価を保っていたため、 2回目を打っても、その割合は大きく変化しませんでした。

ただし、抗体価の平均値を見ると、 H1N1だけでなくH3N2でも 追加接種による上昇が認められています。

つまり、2回目の接種による反応は、 インフルエンザウイルスの種類によって違っていたわけです。

TROPICS1試験の抗体価の推移。年1回接種群と半年ごと接種群の比較
図2:TROPICS1試験における抗体価の推移。 上段は年1回接種群、下段は半年ごと接種群です。 出典:Young B, et al. Clin Infect Dis. 2019.

一応、グラフを載せておきます。

上の段が1年に1回、 下の段が1年に2回打った人たちのグラフです。

2回目によって抗体価が上がる株もありますが、 1回目と同じように大きく上昇するわけではないようです。

あと、2回目による抗体上昇幅は1回目よりかなり小さい!

4倍以上のHI抗体価上昇があった人の割合を見てみます。

インフルエンザ 1回目 2回目
A型(H1N1) 75.5% 21.6%
A型(H3N2) 76.0% 12.4%
B型 47.4% 3.1%

出典:TROPICS1試験。 1回目と半年後の2回目、 それぞれ接種前後の抗体価を比較した結果です。

1回目は、特にインフルエンザA型では 7割以上の人が抗体価の大きな上昇を示しているのに、 2回目ではその割合がかなり少なくなっています。

ただし、これは2回目を打っても抗体価が上がらないという意味ではありません。

私は免疫学の専門家ではないのですが、 患者様にわかるよう、あえて説明しますと、

インフルエンザワクチンの抗体というのは、 打てば打つほど、どんどん上がっていく、

例えば、

抗体価が40(接種前) → 160(1回目接種後) → 640(2回目接種後)

のように、接種するたびに4倍ずつ上がるとは限らないようです。

もともと抗体価が高い人では、 2回目を打っても上昇幅が小さくなることがあります。

シンガポールの研究では、 半年たっても一定以上の抗体価を持っている人が多い株もありました。

一方、抗体価が下がっていた株では、 半年後の追加接種によって改善が認められています。

ということは、 2回目の接種が必ず無意味というわけではないけれど、 想像していたように、 すべての株に対して抗体価を大きく上げられるわけでもないようです。

ここで注意! 抗体価と実際の予防効果は別の話です。

ここで注意しなくてはならないのは、 この話は主に抗体価の話をしているということです。

実際にインフルエンザになるか、ならないか、 あるいは重症化を防げるかどうかは、 抗体価だけでは判断できません。

「添付文書通り4週間あけて2回目を受けても、 実際の予防には上乗せ効果がまったくない」

と断言しているわけではありません。

紹介したシンガポールの論文でも、2回接種をした人の方がインフルエンザ様疾患が少ないという結果が出ています。 ただし、インフルエンザ様疾患にはインフルエンザ以外の呼吸器感染症も含まれるため、この結果だけで2回接種によるインフルエンザの発症予防効果が明らかに高いとは断言できません。

その点はお含みおきください。

今回調べた限りでは、 半年後の追加接種について一定の効果を示唆する研究はありましたが、 3か月後に接種すれば予防効果を確実に長持ちさせられる、 という十分な根拠は見つかりませんでした。

ですので、

成人では基本的に1回接種とし、 効果を長持ちさせるために3か月後や年明けに追加接種する方法は、 当院ではお勧めしない。

というのが、私の結論です。

なお、添付文書に記載された接種間隔での2回接種については、 ご希望があれば、接種歴などを確認したうえで 当院でも対応いたします。

最後に

皆さんに思い出してもらいたいのは、 2020年と2021年の冬のことです。

コロナが猛威を振るい、 感染症対策をみんなでしていた時期、 2020年と2021年の冬は本当にインフルエンザがほとんどいなくなり、 内科医の私もとても驚きました。

もちろん、流行が大幅に減った理由を マスクや手洗いだけで説明することはできませんが、 感染症対策の大切さを改めて実感した出来事でした。

ワクチンは当然大切ですが、 予防という観点からは、 手洗いと適切な場面でのマスクの着用、 換気なども重要です。

今年は流行が早く始まっています。

ワクチンの接種時期を考えながら、 基本的な感染症対策もしっかり行いましょう!

マスクをしてワクチンを接種するイラスト